インパルス応答を使った室内音響測定入門

室内音響測定について

音響的な側面での快適さを考えるにあたって、対象とする空間の響き(残響)がキーとなります。
この響きを測定できるのがインパルス応答測定です。

インパルス応答自体は制御工学や電子回路など幅広い分野でも利用されていますが、
室内音響に限定して触れたいと思います。

Contents

  1. 響き・残響について
  2. インパルス応答の考え方
  3. インパルス応答測定をやってみる
  4. まとめ

1. 響き・残響

響きの正体

なにか音が鳴って、鳴り止んだあとも若干聴こえて、たちまち消える音。それが響きや残響というものです。
音源として鳴っている音に対して、残響音と言ったりします。

残響の正体は反射音の集合です。

現実ではなかなかありえませんが、何も反射するものがない場合は鳴っている音のみが耳に入ります(Fig. 1)。
もちろんこのケースでは、音源の音が鳴らなくなったとほぼ同時に聞こえなくなります。

この空間で手を叩いて「パン」と音を出しても「パン」としか聞こえません。

Fig. 1 反射するものがない所で音が鳴るケース

一方、我々が普段いる室内は壁や天井に囲まれているので、音を反射するもので溢れています。
音と反射の関係を以下にあげます。

  • 反射する度に音のエネルギは減衰する
  • 反射する分、伝播経路が長くなるため遅れて聞こえる

反射のある空間(Fig. 2)では、音源となる音がなくなっても、しばらく音が鳴り(=残響)、
その音も徐々に弱くなって無くなります。

この空間で手を叩いて「パン」と音を鳴らすと、「パァン」と音が伸びます。

Fig. 2 室内で音が鳴るケース

残響と室内空間

残響がたくさんある空間では、
相手の話している内容を正しく聞き取ることが難しいと思います。
会話するのには残響がない空間が適しています。

逆にオーケストラのコンサートでは、コンサートホールもひとつの楽器であると言われるように、
残響があることが評価されます。響きがあることによって複数の楽器の出す音が混ざり合って、
ハーモニーが美しく聴こえるとかなんとか(音楽家ではないのでわからないですが…

このように室の目的によって最適な残響は変わってきます。

ここから少し独り言(飛ばして構いません)
コンサートホールなどではきちんと音響設計がおこなわれています。
また測定や評価なども徹底しているのが常となっております。人もお金も動かせるということは強い
しかし、聴こえが重要になる空間はなにも特殊な空間に限りません。
例えば、普段過ごす居室、学校の教室、会議室、ホテルのロビー、銀行の相談ブース、役所の窓口など
会話が頻繁に行われる空間は日常に溢れかえっています。
これらの空間では音響的な設計が十分でないことがほとんどであり、様々な弊害を起こしている可能性があります。
こういった問題の解決のためにも一般的な室での測定が重要だと筆者は考えております。

2. インパルス応答の考え方

インパルス応答についてですが、これも言葉から考えてみましょう。

「インパルス」は芸人ではなく、特殊な信号のひとつです。
どういった信号かと言うと、時間軸上の一点のみにおいてエネルギがある信号です(Fig. 3)。

Fig. 3 インパルス信号のイメージ

具体的にはディラックのデルタ関数を離散化したものだとか言われますが、
とりあえずFig. 3のイメージだけでいけます。

このインパルス信号、音として聴くと「パン」とか「プ」とかいう音になるのですが
身近なものでいえば手を叩いた音が一番近いです。

「応答」は反応だとか、答えだとか、英語だとレスポンスだとかで言い換えができます。
ある系(システムや関数)に、何かを入力したときの出力にあたります。
上で説明した「インパルス」信号を、今回は室内に入力したときに出てくる(≒聞こえる)音が
インパルス応答になります(Fig. 4)。

Fig. 4 インパルス応答の考え方

3. インパルス応答測定をやってみる

インパルス信号,音源

インパルス信号として、身近な手を叩いたときの音を使いたいと思います。
もし可能であれば競技用ピストルを使ったり、風船を割ったりしてもいいです。

ちなみに折り紙といえど紙鉄砲によるインパルス応答測定もしっかりとしたデータがとられていたりします。
例えば小林理研のこちらのページ

応答の測定,マイクロホン&ソフトウェア

録音は適当なマイクロホンで構いません。
録音用のソフトウェアもなんでもいいですが、今回はwavesuferを使いましょう。
(インストールほかガイドは早稲田大 菊池先生のページがおすすめです。)
もちろん以前の記事にあるようにpythonスクリプトから録音もできます。

その他注意点

なるべく静かな環境で行いましょう。インパルス応答の測定は対象とする系が時間変化しないことや、
測定用の信号(手を叩く音)以外の信号がないことが前提です。可能なら空調なども切った上で測定してください。

それから測定時間については空間にも左右されますが一般的な部屋なら最低限2秒ほしいところで、5秒あれば十分長いくらいです。長くとっても後ろは切ればいいだけなので、録音停止する場合は落ち着いておこないましょう。

測定結果

実際にwavesuferで手を叩いた音を録音した画面がFig. 5です。音はこちらに。
見えにくいですが、ある一点で縦に線が入っているのがわかります。

Fig. 5 手を叩いた音の録音結果

時間波形とスペクトログラムをFig. 6に示します。

Fig. 6 手を叩いた音の時間波形とスペクトログラム

スペクトログラムの2 [sec]よりも少し前にある黄色い縦の線が直接音で、
直後にあるうっすらモヤ~とした部分が残響です。

Fig. 6でいう2 [sec]のところにある線は、直接音からおよそ0.3 [sec]の間隔があります。
音速≒340 [m/s]としてみると片道50 [m]ほどの位置から反射音があることになります。
測定した室は1辺が7~9 [m]ほどであり現実的ではないことから、ノイズであることがわかります。
(今回はノイズでしたが、インパルス応答内のピークは反射音に相当し、
音速をかける事によって反射物までの距離が逆算できます。)

4. まとめ

  • 残響は反射音の集合である
  • インパルス応答で残響を調べることができる
  • 測定には拍手をインパルス信号として使える

とりあえず測定(録音?)までできました。
今回はここまでですが、測定して終わりではなく解析して初めてデータの意味がありますが、
それはまたの機会にしたいと思います。
(解析すると、例えば音が明瞭に聞こえるかどうか、がある程度わかるようになります。)


花韮(ハナニラ)

学名:Ipheion uniflorum
和名:ハナニラ(花韮)
科名 / 属名:ネギ科 / ハナニラ属(イフェイオン属)
NHK出版「みんなの園芸」webサイトより)

白い花弁に淡い青が入った花。かわいいけれども少し儚げ。ニラの匂いがする。

「インパルス応答を使った室内音響測定入門」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: Swept-Sine(TSP)信号を使ったインパルス応答測定 | 有閑是宝

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